こんにちは、パパでナースです。
今回は【手術体位での末梢神経障害】についてです。
手術室では神経保護が至上の課題です。
数時間にわたる手術での体位変化は、意外にも神経への影響をもたらすことがあります。
患者さんにとって、撓骨神経麻痺から坐骨神経麻痺まで、これらの神経障害は術後のQOLを著しく低下させる可能性があります。
そこで、本記事では手術中の体位や動作から生じる神経障害について詳しく掘り下げ、その予防と対策について考察します。
Contents
体位による末梢神経障害
体位による末梢神経障害は、神経の血流障害からくる神経機能不全が主な原因で、通常は一過性で自然治癒が期待できます。
しかし、長時間の強い圧迫下では、神経に恒久的なダメージが生じる可能性があります。
予防は、適切な体位と神経の安全を確認し続けることで、麻酔科医・外科医・看護師が協力しなければなりません。
重要なポイント:
体位による末梢神経障害の主な原因は神経の血流障害。
通常は一過性で自然治癒が期待できますが、長時間や強い圧迫は深刻な影響を及ぼす可能性があります。
適切な体位と定期的なチェックが神経障害の予防に重要。
麻酔科医・外科医・看護師が連携して対策をとる必要がある。
体位を原因とする代表的な末梢神経障害
尺骨神経麻痺
末梢神経障害のうち、尺骨神経麻痺は最も一般的で、周術期神経障害の約28%を占めます。
感覚障害や筋力低下などを引き起こし、特に男性に多く見られます。
術中、肘や手術台の角への圧迫を避けるために上肢の正確な位置づけが重要で、必要に応じてパッドやシートで保護することが推奨されます。
重要なポイント:
尺骨神経麻痺は周術期末梢神経障害の約28%を占める最も一般的なタイプ。
症状には感覚障害、筋力低下が含まれ、特に男性に多い。
手術中に上肢を適切に配置し、圧迫を避けることが重要。
適切なパッドやシートの使用が手術中の上肢保護に推奨される。
腕神経叢麻痺
腕神経叢麻痺は周術期末梢神経障害の約20%を占め、上肢の運動・感覚障害を引き起こします。
特に、手術中の不適切な頸部や上肢の位置づけが原因となることがあります。
上肢を体幹に添え、外転は90度以下に保つことが重要です。
さらに、肩留め具の正しい位置づけや適切な枕の使用も推奨されています。
重要なポイント:
腕神経叢麻痺は周術期末梢神経障害の約20%を占める。
手術中の不適切な頸部や上肢の位置づけが原因となることがある。
上肢は体幹に添え、外転は90度以下に保つことが重要。
肩留め具の正しい位置づけや適切な枕の使用が推奨される。
撓骨神経麻痺
撓骨神経麻痺は手関節の背屈障害を引き起こします。
これは、橈骨神経溝が圧迫されることで生じ、手術中に腕が手台から落ちて長時間圧迫されることが原因となります。
回復には数か月を要することがあるものの、時間経過と共に軽快し、予後は通常良好です。
重要なポイント:
撓骨神経麻痺は手関節の背屈障害を引き起こす。
これは橈骨神経溝が圧迫されることで生じる。
手術中に腕が手台から落ちて長時間圧迫されることが原因となることがある。
回復には数か月を要するが、時間経過と共に軽快し、予後は良好。
総腓骨神経麻痺
総腓骨神経麻痺は足関節と足趾の背屈障害、通称下垂足と、下腿から足背の感覚障害を引き起こします。
これは腓骨頭部で総腓骨神経が圧迫されることで起こり、特に手術中の体位や膝の保護が重要です。
予後は必ずしも良好とは言えず、定期的な肢位の確認が必要です。
重要なポイント:
総腓骨神経麻痺は下垂足と感覚障害を引き起こす。
これは腓骨頭部で総腓骨神経が圧迫されることで起こる。
手術中の体位や膝の保護が重要である。
予後は必ずしも良好とは言えず、定期的な肢位の確認が必要。
外側大腿皮神経麻痺
外側大腿皮神経麻痺は大腿外側の知覚障害やしびれを引き起こしますが、運動障害は伴いません。
主に、腹臥位手術でフレーム支持台が鼠径部を圧迫することにより発生します。
予防策としては腸骨棘から腸骨稜への除圧が有効で、麻痺が発生した場合でも大半は数日から数ヶ月で自然に回復します。
重要なポイント:
外側大腿皮神経麻痺は大腿外側の知覚障害を引き起こし、運動障害は伴わない。
主に腹臥位手術でフレーム支持台が鼠径部を圧迫することで発生する。
腸骨棘から腸骨稜への除圧が予防策として有効。
麻痺が発生した場合でも、ほとんどの場合数日から数ヶ月で自然に回復する。
坐骨神経麻痺
坐骨神経麻痺は周術期末梢神経障害の約7%を占め、大腿の伸展障害や下腿と足全体の感覚障害などを引き起こします。
特に、砕石位での手術中に太腿を過度に外転させたり、股関節を屈曲したまま膝関節を伸ばすと発症のリスクが高まります。
体位変換時の注意点として、股関節の屈曲を90度以上行わないこと、股関節屈曲と膝関節伸展を同時に行わないことが挙げられます。
残念ながら約半数の症例では運動麻痺が残存し、予後は不良となることがあります。
重要なポイント:
坐骨神経麻痺は大腿の伸展障害や下腿と足全体の感覚障害などを引き起こす。
砕石位での手術中に太腿を過度に外転させたり、股関節を屈曲したまま膝関節を伸ばすと発症のリスクが高まる。
体位変換時には、股関節の屈曲を90度以上行わないこと、股関節屈曲と膝関節伸展を同時に行わないことが必要。
約半数の症例では運動麻痺が残存し、予後は不良となることがあります。
その他
全身麻酔下での体位変換は注意が必要で、過度な頸椎の屈曲や伸展、一体化しない状態での回転は頸椎捻挫や頸髄損傷のリスクがあります。
特に頸椎を伸展したまま回旋すると大後頭神経障害を引き起こす可能性があります。
体位変換をゆっくり慎重に行うとともに、頸部は軽度屈曲位に保つことが重要です。また、腹臥位や側臥位での神経障害や関節傷害、眼球周囲の圧迫も防ぐべきです。
砕石位での股関節や膝関節の開排、外旋については、患者の限界を超えないよう術前に十分確認しましょう。
重要なポイント:
全身麻酔下での体位変換は、過度な頸椎の屈曲や伸展、一体化しない状態での回転が頸椎捻挫や頸髄損傷のリスクを生じます。
体位変換をゆっくり慎重に行うこと、および頸部を軽度屈曲位に保つことが重要です。
腹臥位や側臥位では神経障害や関節傷害、眼球周囲の圧迫に注意が必要です。
砕石位での股関節や膝関節の開排、外旋は、患者の限界を超えないよう術前に十分確認することが重要です。
Q&A
質問1: 何が撓骨神経麻痺を引き起こす可能性がありますか?
回答1: 撓骨神経麻痺は通常、手の後方の弾性障害として現れ、感覚障害はほとんどないか非常に軽微です。
この状態は橈骨神経溝が圧迫されることで起こり、手術中に患者の腕が手術台から落ちたときにしばしば発生します。
治療には時間がかかる場合がありますが、経過とともに症状は軽快し、予後は通常良好です。
質問2: 総腓骨神経麻痺の主な症状とは何ですか?
回答2: 総腓骨神経麻痺は、足関節と足指の背屈が不可能になる下垂足と、下腿の外側から足背に至る感覚障害を特徴とします。
これは通常、腓骨頭部で総腓骨神経が圧迫されて発症します。
予後は必ずしも良好でなく、場合によっては不良となる可能性もあります。
質問3: 全身麻酔下で体位を変更する際の注意点は何ですか?
回答3: 全身麻酔下で体位を変更する際には、頚椎に過度な屈曲や伸展が加わらないように注意が必要です。
特に頚椎を伸展したまま回旋すると大後頭神経障害を引き起こす可能性があります。
また、体位変換時には股関節の屈曲を90度以上行わないこと、股関節屈曲と膝関節伸展を同時に行うことを避けるなどの注意が必要です。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
手術中の神経保護は、患者さんの術後のQOL向上と直結しています。
術前の十分な確認から術中の定期的なチェックまで、一見小さな配慮が、大きな後遺症を防ぐ力となります。
各神経の障害特性を理解し、それぞれの予防対策を日々の実践に活かしていくことが、我々医療従事者の使命です。
本記事が、その一助となりますように。患者さん一人一人のために、共に学び、共に進んでいきましょう。
引用文献
周術期管理チームテキスト第4版