こんにちは、パパでナースです。
今回は【術前内服薬】についてお話します。
「手術を控えているけれど、術前にどんな薬を飲んでいいの?」「術前の薬物管理が不安…」そんな悩みを抱える方へ、この記事は必見です。
手術前に内服薬の継続や中断が必要な場合があり、その判断は専門医のアドバイスが重要です。
本記事では、術前内服薬の適切な管理方法やリスク回避のポイントを分かりやすく解説します。
Contents
術前内服薬とは
術前内服薬の目的と役割
術前に処方されている薬物は、患者の基礎疾患に対処するために使用されています。
手術を受ける前にこれらの薬物を中断すべきかどうかを判断する際には、手術を担当する主治医だけでなく、元々の診療科の処方医にも相談する必要があります。
術前の内服薬には、継続すべきもの、中止すべきもの、そしてストレス量を追加する必要があるもの(例:ステロイド)があります。
手術や麻酔のリスクと術前服用薬の関係を理解し、頻繁に使用される薬物の薬理学的性質や副作用を熟知することが重要です。
また、内服薬以外にもビタミン、ハーブ、サプリメントなどの服用歴を聴取し、患者が使用している全ての薬物について、その名称、薬物分類、処方対象の疾患や病態、副作用などを周術期管理者が理解しておく必要があります。
主な術前内服薬の種類
降圧薬
降圧薬は、高血圧を治療するために処方される薬で、血管を広げて血圧を下げるものと、循環血液量や心臓からの血液の拍出量を減らして血圧を下げるものがあります。
高血圧は、手術患者において最も一般的な合併症の一つで、長期的にはさまざまな臓器への悪影響を及ぼすことが知られています。
術中において、高血圧患者は血圧の大きな変動が起こりやすく、急激な血行動態の変化は心筋虚血を引き起こし、心筋梗塞のリスクを高めることがあります。
このため、術中の血行動態をできるだけ安定化させることが重要です。
術前に内服している降圧薬については、手術当日の服用に関して薬物ごとに対応が異なります。
例えば、β遮断薬は中断によって反跳性高血圧や心筋虚血の悪化を引き起こす可能性があるため、一般的に手術当日の朝まで服用します。
一方で、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は、術前の服用により術中の高度な低血圧が起こりやすくなるため、手術当日の朝の服用は通常中止されます。
血糖降下薬
血糖降下薬としての糖尿病治療薬には、注射薬と経口薬があります。
注射薬にはインスリン製剤とインスリンアナログ製剤があり、インスリン製剤は人間が分泌するインスリンと同じアミノ酸配列を持っています。
一方、インスリンアナログ製剤はアミノ酸配列を少し変えることで、注射後のインスリン作用の効果を速めたり、持続時間を長くしています。
経口薬には多くの種類がありますが、インスリン分泌を促進する薬と促進しない薬に大別できます。
インスリン分泌促進薬の代表はスルホニル尿素(SU)薬で、50年以上の歴史があります。また、最近開発された速効型インスリン分泌促進薬もあり、SU薬が1日1〜2回服用するのに対して、速効型は毎食前に服用することが一般的です。
インスリン分泌を促進しない血糖コントロール薬には、肝臓からのブドウ糖放出を抑制し、インスリン抵抗性を改善するビグアナイド類、消化管からの糖質の消化吸収を遅らせるαグルコシダーゼ阻害薬、インスリン抵抗を改善するチアゾリジン誘導体があります。
これらの薬物を状態に応じて適切に使用することで、良好な血糖コントロールが得られます。
向精神薬
向精神薬には様々な種類があり、略語で表されることが多いです。統合失調症の治療には、SDA(serotonin-dopamine antagonist)、MARTA(multi-acting receptor targeted antipsychotics)、ドパミン部分作動薬といった非定型抗精神病薬が使用可能です。
これらの薬は、脳内のドパミンが過剰になることで引き起こされる幻覚や妄想を抑制することで、症状を軽減させると考えられています。
うつ病治療においては、従来の三環系抗うつ薬の副作用や過量服用時の危険性から、SSRI(selective serotonin reuptake inhibitor)が登場しました。
これらは様々な神経症性障害にも使用されていますが、消化器症状や性機能障害、不安・焦燥の引き起こす問題が浮上しています。
また、ノルアドレナリンに選択的に作用するSNRI(serotonin noradrenaline reuptake inhibitor)は、意欲や疼痛への効果が期待されていますが、効果が弱いことが課題となっています。
これらの向精神薬は、原則として手術前後も継続服用されることが一般的ですが、麻酔管理を行う際には、これらの薬物を服用していることを十分に認識して対応する必要があります。
抗凝固薬
抗凝固薬は血栓塞栓症に対して使用され、急性期や慢性期の予防に用いられます。
日本で使用されている抗凝固薬には、ワルファリンがありますが、併用薬や飲食物によって作用が増減するため注意が必要です。
例えば、納豆や青汁、セントジョーンズワートで作用が減弱し、セフェム系抗菌薬やスルホニル尿素(SU)薬で作用が増強されます。
これらの抗凝固薬は原則として手術前に中断されます。
近年は、経口抗凝固薬(NOAC:novel oral anticoagulants)が多く用いられるようになりました。
ダビガトランはトロンビン阻害薬で、アピキサバンやリバーロキサバンは活性第X因子阻害を起こします。
NOACは個人差が少なく、他の薬剤の影響を受けにくく、治療効果モニタリングも必要ありません。
半減期が短いため、手術前2〜4日前に中止し、必要に応じてヘパリン静注に切り替えることが一般的です。
まとめ
術前薬物管理は、主治医と処方医の協力が不可欠。内服薬の継続・中断・ストレス量調整が必要です。
リスク把握のため、薬理学的性質や副作用を熟知。ビタミン、ハーブ、サプリメントも考慮し、周術期管理者が全情報を把握します。
主治医と処方医との連携
内服薬の継続・中断・調整
薬理学的性質と副作用の理解
ビタミン、ハーブ、サプリメントの考慮
Q&A
Q1: 術前薬物管理で主治医や麻酔科医とオペナースが連携する理由は何ですか?
A1: 患者の基礎疾患に対する適切な処方と、手術や麻酔に関するリスクを最小限に抑えるためです。両者の意見が必要で、効果的な周術期管理が行われます。
Q2: 内服薬の継続・中断・ストレス量調整が必要な理由は何ですか?
A2: 内服薬の継続・中断・ストレス量調整が必要な理由は、手術や麻酔によるリスクを避けるためです。
特定の薬物が手術や麻酔と相互作用し、副作用や合併症のリスクが高まる可能性があるため、適切な管理が必要です。
Q3: ビタミン、ハーブ、サプリメントの服用歴も聴取する理由は何ですか?
A3: ビタミン、ハーブ、サプリメントの服用歴も聴取する理由は、これらの製品も手術や麻酔と相互作用する可能性があり、副作用や合併症のリスクを増加させることがあるためです。
周術期管理者は、患者が使用している全ての薬物や製品について熟知しておく必要があります。
おわりに
いかがでしたか。
手術を控えるオペナースの皆さんにとって、術前の薬物管理は不安なポイントのひとつかもしれません。
この記事を通して、適切な内服薬の管理方法やリスク回避のポイントを理解していただけることで、手術前の不安が少しでも軽減されたことを願っています。
術前に必要な薬物管理は専門医との連携が重要ですので、適切なアドバイスを受け、手術に臨んでください。
引用文献
周術期管理チームテキスト第4版