川嶋みどり氏の独自の視点からナイチンゲールの心情を細やかに汲み取りつつ、さらに日本赤十字の歴史をひも解くことで、日本の看護をも振り返る。そして、看護の過去・現代・未来を通し、戦争の根絶、平和の尊さを願う川嶋氏がナイチンゲールに宛てた究極のラブレターである。
本の紹介文
こんにちは、パパdeナースです。
今回の本は日本赤十字大学名誉教授である川嶋みどり氏による、ナイチンゲールに送るラブレター。
随所にナイチンゲールがたどってきた困難な道に対し寄り添い、称え、時には鼓舞していく。
序盤はナイチンゲールの生い立ちを語りつつ、中盤では著者の生い立ちを通して日本の看護の歴史について特に日本赤十字と関連して話が展開していくのである。
著者が日本赤十字社中央病院で勤務していた時の職場に戦時招集状を受けて戦地で赤十字救護看護師として従事した先輩たちがいたそうだ。
その方々からの話を直接肌で聞いて感じていることからなのか、戦争の悲惨さや平和への強い思いを文面から伝わってくる。
そして、終盤では看護のあり方、これからの看護としての著者自身の考えをナイチンゲールの金言とともに紹介していく流れになっている。
本全体はとても読みやすい。ところどころに挿絵がついていて当時のナイチンゲールの画や写真などとてもイメージがしやすい。
また、各章のはじめに書かれている著者からの問いかけがあり、本を読むときのガイドラインとしてとても有効であった。
とにかく遊び心が盛りだくさんな作りになっていて、小学生から大人まで楽しく読めるようになっている。もちろん、字も大きい。
ちなみに表紙のスズラン。とても華やかであり、花言葉は‘再び幸せが訪れる’‘純粋’‘純潔’‘謙遜’。
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この本でビビッときた文章とそれについてのつぶやき
- 「わたしがトシエちゃんに行なったことは正しい看護だった!看護の原点はここにあったんだ!」(p10)
→著者の原体験での発言。
- クラーキーからは、人生にとってもう一つ大切なことを学びました。それは、クラーキーが男性たちに媚びることなく、自分らしさを貫いて付き合い、恋愛感情を抜きにして対等に親しい友人関係を築いている様子です。その関係に、ナイチンゲールは憧れました。そして、異性との交際において恋愛感情を抜きにした友情は存在するという信念を抱き、生涯誰とも結婚しない生き方を選びました。(p33)
→このことからもわかるように本の表紙のスズランの‘純潔’を意味しているのかな。
- 「私の心は人びとの苦しみを思うと真っ暗になり、それが四六時中、前から後ろから、わたしにつきまとって離れない。まったく偏った見方かもしれないが、私にはもうほかのことは何も考えられない。詩人たちが歌い上げるこの世の栄光も、私にはすべて偽りとしか思えない。目に映る人びとは皆、不安や貧困や病気に蝕まれている」(p42)
→貧しいものを目にして心を痛めるナイチンゲールの発言。
- ナイチンゲールが、深窓の令嬢でありながら生涯を通じて、どんなときも貧しい人に目を注ぐことができたのは、信仰心とともに、富と貧困とのあまりにも大きな格差を自分の目で確認し、理に合わない社会のありように疑問を感じるような体験をしていたからにほかならないと思います。また、それを感じ取る秀でた社会的な感覚は、長期間にわたる旅行で出合った各地でのできごとや、多彩な人びととの出会いなどで、よりいっそう磨かれたに違いありません。(p43)
→教養がある、と一言では片付けられない彼女の先進的な価値観。当時では異端であったことだろう。
- 悲惨な状況にある病人を救うために必要なものは、やさしさや同情、慈愛、忍耐に溢れることよりも、正しい知識と熟練した技能を持つ人間を育てることと確信した瞬間でした。(p52)
→気持ちも大事。技術はもっと大事。
- それでもナイチンゲールは、自分の信念に従って勉強を続けました。夜明け前から朝食までの数時間だけが、ナイチンゲールが自分の目標のために過ごすことのできる時間でした。家族に内緒で知人から公衆衛生や病院に関する資料を送ってもらい、それらを読んだり分析したりしました。(p54)
→ここまでの努力を常にし続ける彼女の意志の強さ、使命感は並々ならぬものがある。
- 自分の求める道を、こんな幾度も反対し妨げる家族に対して、なぜ彼女は反発しなかったのでしょうか。それどころか、反対されたり妨害されるたびに、落ちこんで、悩むのはなぜだったのでしょうか。わたしは、それは、ナイチンゲールが家族の思いを気にかけるやさしさのためではないかと思います。家族を心から愛していたので、考え方は違っても両親や姉を何とか説得して、神のお召しにむかって歩く自分の願いを理解してほしいとの思いが強かったからではないでしょうか。(p56)
→著者が思うナイチンゲールの人柄について言及している部分
- ナイチンゲールは直感的に彼らを守る立場でありたいと、自らを「5万人の子らの母」と呼んで、兵士たちを心から大切にしていました。(p103)
→責任感が強い、というかこれも使命感ゆえの発言なのであろうか。
- 「本当の意味での戦争の恐ろしさ、それは怪我でもなければ出血でもなく、突発熱や体温低下や急性慢性の赤痢でもなければ、寒冷でも酷暑でも飢えでもありません。兵卒においては、アルコール中毒と泥酔による蛮行と、道徳の低下と乱脈な生活であり、士官においては、妬み合いと卑劣な陰謀と利己的な蛮行なのです。これらこそが戦争の真の恐ろしさなのです」(p104)
→実際にナイチンゲールが現地に赴いたことで体験したリアルな感想である。
- 「あの戦争で、亡くなられた官民350万人のいのちが化身して、日本国憲法を残したと私は信じます。戦争をしないために、巻き込まれないために、盾として平和憲法の第九条を守ってくださるように」
→赤十字救護看護師で働いた方の発言
- 「戦場で傷ついたり、病気になったりした兵士を看病することは、お国のために身を捧げることであって、これは日赤看護師の義務である」(p124)
→ナイチンゲールも看護師を兵士にたとえて「私たちを最後まで耐えさせるのは何でしょうか。規律です」「服従とは、言われたことをすぐやることです」と述べています。一方で、献身的で従順でありさえすればよいとの考え方に厳しく反論する文章もみられる。
- そればかりか、戦争についても同様のことがいえるのではないでしょうか。加害の立場を含めて真実を知り、戦争の悲惨さについて認識を新たにすること。たとえ、自分で行なったのではなくとも、自分とつながりのある集団が行なった行為に対しては、誠実なお詫びの気持ちを表すこと。そうした積み重ねが、他国とのより良い関係を再構築し、真の平和への道に通じるのです。(p134)
→著者の痛切な願いが文面を通して強く伝わってくる。
- 「看護は犠牲的行為であってはなりません。人生の最高の喜びのひとつであるべき」(p163)
- 彼女の信念を一言で表すと「犠牲のない献身こそ真の奉仕」であったといえるでしょう。決して犠牲の名によって意を沿わない仕事をするべきではないということです。(p164)
- 何かに優れた人、人まねではない独自の発想のできる人は、訓練に訓練を重ねて思考と反応を条件づけているのです。同時に、幾度も幾度も実践を積み重ねることも大切だと思います。量はやがて「質」に転化するのです。(p169)
今日からできる小さなステップ
思いやりの精神以上に正しい知識と熟練した技能がより患者を助けることを心に留めることを忘れない。
1行まとめ
看護とは自己犠牲のない献身である。‘看護ってステキ!’
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